下肢静脈瘤の治療が必要な場合
以下の1、2に当てはまる場合には、静脈瘤の治療が必要と考えられます。
1静脈瘤による症状で生活に不自由、支障を来たす場合
- 立ち仕事の後の脚の痛み、だるさや疲れ、むくみに悩まされている
- 静脈瘤による皮膚症状(皮膚炎や潰瘍、かゆみなど)がある
2見た目が気になり、社会的活動の制限や精神的な影響がある場合(美容的な問題)
- 静脈瘤があるため、スカートなど好きなファッションができない
- 脚を見せたくないため、温泉やプールに行けない
- 見た目が気になり、気分が沈んでしまう
これらに当てはまらないようであれば、治療をせずに様子を見ることもあります。
当院の治療について
圧迫療法(保存的療法)
静脈瘤は脚部を圧迫し、静脈にたまった余分な血液の流れを良くすることで改善します。
そのため、日中は特殊な圧迫ストッキング(弾性ストッキング)を着用し、脚部を適切に圧迫する治療が有効です。
この医療用ストッキングは足先の圧迫が強く、脚の付け根にいくほど弱くなる加工が施されたストッキングです。
かなりきつめにできているため、慣れるまでは履くのに時間がかかります。履きやすくするための補助器具も販売されています。
夕方になると脚のだるさ、つらさがあった方も、こうした治療用のストッキングを着用することで、立ち仕事がだいぶ楽になるはずです。
ストッキングを着用するだけなので、「簡単」「気楽」というのが利点ですが、厚めの生地が使用されているために、暑い季節には不快感があるかもしれません。
また、脱いでしまえば効果もなくなるため、一定期間着用すれば静脈瘤がなくなる、というわけではありません。就寝時に着用していても効果はありませんから、日中、立ち仕事の際に着用することが基本となります。
ストッキングは毎日使っているうちに伸びてきてしまうため、半年ほどで買い替える必要があります。
病院で適切な圧迫圧やサイズの指示を受け、脚に合ったストッキングを着用するようにしましょう。
きつくなければ効果はないものの、きつすぎれば危険なこともあるので注意が必要です。
きつすぎると苦しくて履き続けるのも困難になります。
圧迫療法のメリット
ストッキングを履くだけですから、お忙しい方も続けやすい治療法です。
また、1足4,000円前後ですので、価格的にも気軽に始められます。
圧迫療法のデメリット
保存療法ですから、進行防止や現状維持が目的となり、下肢静脈瘤を治すことはできません。圧が強く履くためにコツを習得する必要があり、厚手のストッキングですから夏はどうしても蒸し暑くなります。
硬化療法
硬化療法とは、問題のある血管に硬化剤を注射した後に圧迫し、静脈瘤を癒着・硬化させる治療法です。
硬化した静脈はだんだんと小さくなり、組織に吸収されて最後には消えてしまいます。
硬化した静脈には血液が流れず、正常な静脈を流れるようになるために症状が改善します。治療にかかる時間は5~10分程度で、比較的簡単に行えます。
注射をして圧迫するだけなので傷跡は残りませんが、大きな静脈瘤には効きません。
また、外科手術に比べて再発が多いのが欠点です。合併症として色素沈着や血栓(血のかたまり)形成による血栓性静脈炎を起こすことがあります。
硬化療法のメリット
注射だけですので、手術で残るような傷はできません。
麻酔は通常必要とせず、施術を受けたその日に歩いてご帰宅できます。
硬化療法のデメリット
大きい静脈瘤にはあまり有効ではなく、手術と比べて再発率が高いことがデメリットです。
また、時間の経過と共に消失するとはいえ、施術を受けてしばらくの間、色素沈着やしこりが残る場合があります。
高位結紮
高位結紮とは脚の付け根部分の血管をしばる手術です。
下肢の静脈には深部静脈と呼ばれる筋肉の内部を通る静脈と、下肢の表面を通る浅在静脈とがあります。
下肢動脈瘤は主に浅在静脈の弁がうまく機能せず、血液が逆流するため起こります。
そのため、問題のある浅在静脈を深部静脈との合流点でしばってしまえば、血液の逆流が起こらず静脈瘤がなくなります。
手術は局所麻酔下で脚の付け根を約2cm切るだけなので、比較的簡単にすみます。
しかし手術後しばらくすると、それまでごく細かった血管が拡張してバイパスになり、ここでまた逆流が起こって再発しやすくなります。再発率が80%と高いのがこの手術の欠点です。
高位結紮術のメリット
術後、消毒や抜糸の必要がなく、傷が目立たないため、患者さまへのご負担が軽い治療法です。
高位結紮術のデメリット
単独の施術では十分に治らないこともあり、再発率も高いため、ほとんどの場合、他の治療法と併用することが前提となっています。ごく小さな皮膚切開部で施術しますので、血管を確実に見つけるためには術者の熟練が不可欠な治療法です。
ストリッピング
高位結紮の手術後の再発率は80%と高いため、再発の少ない手術として行われていたのが「ストリッピング」という手術です。
この手術では、鼠径部と膝下の皮膚2カ所を1~2cmほど切開し、ワイヤー状の特殊な器具を使って、弁不全を起こしている静脈を引き抜いてしまいます。
血管そのものを抜きとるため、再発率は10%以下と低くなります。
しかし血管の枝を引きちぎって抜き取るため、出血してしまうのが欠点です。圧迫止血や、血管を収縮させる薬を投与することで対応できるものの、ある程度の出血は避けられません。
また、抜き取る血管のそばに神経があった場合、神経も一緒に巻き取ってちぎってしまう恐れもあります。
この場合、術後に脚のしびれや痛みといった神経障害を生じることになります。こうした合併症の可能性がストリッピング手術のリスクです。
ストリッピング手術のメリット
再発が極めて少なく、治療効果も大きいことが特徴です。全身麻酔や下半身麻酔で行われていた手術ですが、近年では局所麻酔でも可能になっています。そのため、患者さまのお身体へのご負担も軽くなっています。
ストリッピング手術のデメリット
手術後の痛みが強い治療法であり、合併症として出血や神経障害が起こる可能性があります。
術後の痛みが強く、出血や神経障害などの合併症が起こることがあります。
レーザー治療(血管内焼灼術)
ストリッピング手術では、出血や神経損傷といった合併症のリスクがありますが、これらを軽減するために開発されたのがレーザーによる治療です。
問題のある血管にレーザーファイバーを挿入し、レーザーで血管の内側を焼いて閉塞させてしまいます。
血管をちぎらないため出血がわずかで、近くの神経を損傷するリスクも低く、再発率が10%と低いのもレーザー治療の特長です。レーザーファイバーの刺入部(傷)は1mm程度とごく小さく、手術時間も30分程度で、ストリッピング(1時間)と比べ約半分ですみます。
平成23年1月から保険適応になり、経済的な負担も少なく、安心して治療を受けていただけるようになりました。
治療の比較
治療・手術名 | 傷の目立ちにくさ | 再発防止 | 痛み |
---|---|---|---|
保存的療法 | ◎ | × | なし |
硬化療法 | ○ | × | 少ない |
高位結紮術 | △ | △ | 少ない |
レーザー血管内治療 | ○ | ◎ | 少ない |
ストリッピング手術 | △ | ◎ | ある |