鼠経(ソケイ)ヘルニアについて
鼠経はお腹と足の境目を指す言葉で、ヘルニアは組織が正常な位置からはみ出しているという意味です。鼠経ヘルニアは、主にお腹の中にある組織の一部が鼠径部にふくらみとして出てくる状態になる病気です。一般的に脱腸と呼ばれることがありますが、腸以外の腹膜などの組織が出てくることもあります。成人男性は3人に1人が発症するとされているほど多い病気ですが、小児や女性の発症も珍しくありません。 足の付け根には鼠経靭帯があって、鼠経靭帯の上(足の付け根のお腹側)にふくらみができる場合と、鼠経靭帯の下(足の付け根の太もも側)にふくらみができる場合があります。鼠経靭帯の上にできる場合は、身体の中心に近い下側に出てくる内鼠経ヘルニア、身体の外に近い上側に出てくる外鼠経ヘルニアに分けられます。内鼠経ヘルニアは最も発症数が多く男性に起こりやすい傾向があり、外鼠経ヘルニアは高齢者と男性に多く起こります。鼠経靭帯の下のヘルニアも中心に近い場所にできるため内鼠経ヘルニアですが、こちらは発症数が比較的少なく、出産経験のある女性に起こりやすくなっています。男性の場合、陰嚢にヘルニアが出てくることもあります。なお、鼠経ヘルニアには水がたまる症状を併発することがあります。男性の場合は陰嚢水腫、女性はヌック管水腫です。
鼠経ヘルニアの症状
鼠径ヘルニアの初期症状
- 足の付け根のお腹側や太もも側になにか出てくる感じがする
- 立ち上がった時、お腹に力を入れた時、鼠径部の皮膚の下にふくらみ・腫れができる
- ふくらみや腫れはやわらかく、指で押すと引っ込む
- 男性の場合、陰嚢がふくらむこともある
- ふくらみは横になるとなくなる
進行した際の症状
ふくらみが出てきた時に痛みや不快感がある
緊急受診が必要な際の症状 嵌頓(カントン)
飛び出したものが戻らなくなり、痛みや不快感がある
※命にかかわる可能性もありますので、できるだけ早く受診してください。
鼠経ヘルニアの治療
鼠経ヘルニアは薬などの保存療法で治すことはできず、手術でしか治すことができません。当院では、お身体に負担の少ない人工補強メッシュを用いた最新の手法を用いた鼠経ヘルニアの手術を日帰りで行っています。手術は20分程度で、手術後はご自分で歩いてご帰宅できます。入院する必要がありませんので、時間的・経済的・心理的なご負担も軽減できます。また、成人男性だけでなく、女性や小児の診療から検査、手術まで対応しています。高齢の方や持病のある方の場合も、出血をできるだけ抑えた手術が可能です。抗凝固剤を常時服用されている方でも入院せずに手術を受けられる場合がほとんどですので、ご相談ください。当院で鼠経ヘルニアの診察と手術を行っているのは、国内でも有数の経験を持つ日本外科学会専門医の加賀谷院長です。手術を受けるタイミングのご相談、質問にも丁寧にお答えして、アフターフォローもしっかり行い、ご不安なく手術を受けていただけるよう心がけていますので、安心していらしてください。 なお、遠方にお住まいで診察・検査・手術をご希望される方が増えているため、当院ではご希望に応じて同日の診察・検査・手術も可能です。あらかじめご予約が必要ですので、お電話でご相談ください。
鼠経ヘルニアのリスク
成人男性に多い傾向がありますが、女性や小児の発症も珍しくありません。
成人男性…特に60歳前後の発症が多く、40歳を超えるとリスクが上昇します。
成人女性…20~40歳で、出産経験があると発症しやすい傾向があります。
他に、下記のように強く腹圧がかかるお仕事や習慣などもリスク要因になります。
- 咳が多い・喘息がある・肺気腫など慢性の肺疾患がある
- 出産経験が多い
- 力仕事、立ち仕事などお腹に力が入る仕事をされている
- 激しい運動をしている
- 肥満している
- 便秘になりやすい
また喫煙も鼠経ヘルニアのリスクを上昇させます。
女性の鼠経ヘルニア
生涯で鼠経ヘルニアを発症する確率は、男性27.2%に対して女性2.6%と男性の方が10倍近いリスクがあります。ただし、女性の鼠経ヘルニアは決して珍しい病気ではなく、大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアといった男性より女性に起こりやすいものもあります。 女性の鼠経ヘルニアは、そのほとんどが外鼠経ヘルニアです。乳児から40歳代までに起こりやすいもの、そして50歳以降に起こりやすいものに分けられ、50歳以降では外鼠経ヘルニア以外のものもみられるようになります。
鼠経ヘルニアの日帰り手術
鼠経ヘルニアは手術でしか治すことができません。ヘルニアバンドは既往症などがあって手術ができない場合に用いられることはありますが、ヘルニアバンドで治ることはありません。鼠経ヘルニアの手術では、周囲の組織からヘルニア嚢(のう)を分離する・飛び出しているものを戻す・ヘルニア門という出口を塞ぐ閉鎖を行っていきます。以前は筋肉や筋膜を縫い合わせてヘルニア門の閉鎖を行っていましたが、近年は形状記憶の人工補強メッシュを用いることでお身体への負担を大幅に減らした手術が可能になっています。痛みも少ないため、日帰りで受けることができ、お仕事や学業への影響もほとんどありません。