手術(胸部交感神経切断術)について
手掌多汗症で行う手術は、胸部交感神経節切断術です。胸部交感神経は、背骨の脇を縦に走行する神経です。わきの下に3mm程度の小さな穴を1カ所あけ胸腔鏡というテレビカメラ(内視鏡)を挿入し、この胸部交感神経を部分的に切断します。
手術時間は20分間程で、麻酔も含めて1時間弱で治療は終わります。
目が覚めたときには手の汗が出ない状態になっており、当日帰宅できます。
手術のメリット・デメリット
手術のメリット
- ほぼ100%効果があり、手術してすぐに手の汗が出なくなる
- 3mm程度の傷が1か所で、美容的に問題となりにくい
- 日帰りで治療できる
手術のデメリット
- 副作用として代償性発汗(背中や大腿など他の部位の汗が増える)が出ることがある
- まれに術後しばらくしてから再発することがある
代償性発汗とは
胸部交感神経を切断すると、代償性発汗がおこることがあります。
代償性発汗は、手術によって手のひらに汗をかかなくなった代わりに、背中や太ももなど別の場所に汗が増えるものです。肥満や筋肉質の人、もともと汗っかきの人には多くみられる傾向がありますが、そうでない人にもおこる事があり、手術前での発生の予想は難しいです。
代償性発汗を減らすための工夫
切断する交感神経部位をなるべく少なくすることで、代償性発汗がおこる可能性を減らせる事ができます。
交感神経を木に例えると、木(神経)を根元で切るのではなく、木の枝だけ(手に行く神経だけ)を切るような手術をするのです。実際の手術ではあらかじめ手に特殊なセンサーを付けておきます。手術中に神経に弱い電流を流し、センサーの反応をみて手につながる神経を断定し、そこだけを切断するのです。
また一度に両側の手の神経を切る手術は行わず、片方ずつ手術をしています。片側の手術をして、自分が想像した以上のひどい代償性発汗が起こってしまった場合には、反対側の手の手術をしないことで、被害を最低限に抑えることができるためです。また人によっては利き手の汗が減った事で生活への不自由や不快感がなくなり、あえて反対側の手術をしなくても良くなることもあります。手の使い方(仕事内容などで)によっては、必ずしも両側の手術をしなければならないという事はないのです。以上のような工夫をすることで、代償性発汗がおこる可能性を少なくする、また代償性発汗が出たとしてもその程度を軽くすることができます。しかし残念ながら代償性発汗を完全に抑えることはできません。手術をお考えの方は、代償性発汗がおこる可能性がある事を十分ご理解頂かなければなりません。